講演会から(1)
平成18年度町村公平委員研修会
 日時 平成19年2月20日
 所 ホテルポールスター札幌

地方公務員人事の諸問題

                                 講師 弁護士 佐々木 泉顕 氏
                                   (北海道町村会顧問弁護士)

務員の身分保障と法律

  地方公務員は、果たすべき義務を負っていると同時に、一人の労働者です。その能力を十分発揮するために勤務条件や身分の保障があり、懲戒処分については公正の原則に則ってなされなければいけません。本講演では、法律に基づいて公務員の処分をどのように行っていくべきかを考えたいと思います。
 近年、公務員の不祥事が多数報道されていますが、不祥事に公平に対応していくために法律があります。法律は日々変わっていく社会の状況に対応するために、極めて抽象的な文言でできています。その法律の解釈の基礎となるのが立法趣旨であり、それを踏まえて法律が運用されます。

限処分と懲戒処分

  地方公務員法27条第1項に、「職員の分限および懲戒については、公正でなければならない」とあります。分限処分と懲戒処分、これは職員の意に反して不利益を負わせるという意味では共通していますが、目的と性格はまったく違います。
  分限処分には、制裁的な意味はありません。あくまでも職務を果たせなくなった職員がいる場合に、公務の能率的な運営を確保するために行う処分で、免職、休職、降任、降格があります。懲戒処分というのは、公務の能率的な運営に加え、職場の規律、秩序維持の観点のために職員の行為を理由として道義的非難を科す処分で、制裁的な意味があります。こちらは免職、停職、減給、戒告があります。
  最近は長期間役場を欠勤する職員が増えています。職場復帰の見込みがなければ免職処分にできるのですが、それには医師2名の診断が必要であると各町村の条例で決まっております。ただ、そのような方は精神的な病気にかかっている場合が多く、一般的に精神科の医師は「治らない」とは言いません。そのため「職場復帰の見込みがない」という診断書が出ず、休職状態が続くケースが増えています。このような問題は、町村でも今後増えてくると思います。
  また、懲戒と分限の選択については、任命権者に大幅な裁量権が認められています。20年ほど前に、川崎市の職員が、8万円のライターと20万円相当のギフト券を収賄したという事件がありました。当時はまだ収賄に対する評価が定まっておらず、分限処分になりました。しかしその後、さらに300万円くらいの収賄事件を起こしていたことがわかりました。分限処分により退職金が全て支払われていたため、これは不当な支出であるとして住民訴訟が起こりました。最高裁では、任命権者に裁量権があるためどちらを選択しても良いと認め、住民訴訟を棄却しました。
  懲戒処分と分限処分はそれぞれ目的が違うので、合わせて科すことができます。ただ免職処分だけは、身分喪失の関係なのでどちらか一方と決められています。

事手続きと公務員の処分

  現在は収賄の場合はほとんど逮捕され、48時間以内に検察庁に送検されます。逮捕されず書類だけを送るのが書類送検、逮捕されて身柄付きで送るのが身柄送検です。逮捕された場合の手続きは、人権保護の観点から時間に制約があります。逮捕後48時間以内に検察庁に送り、その後24時間以内に検察庁が勾留請求をします。勾留は原則20日間となっています。合わせて23日以内に検察官が起訴することになっています。
  事件処理には起訴と不起訴があります。起訴されて公判請求されると、被告人として法廷に立つことになります。懲役、禁固になると、執行猶予の有無にかかわらず、地方公務員法16条の欠格条項に該当します。
  不起訴処分は3つに分かれます。「嫌疑なし」というのは罪となるべき事実がないということです。「嫌疑不十分」というのは、証拠が今ひとつ確定できない場合です。「起訴猶予」というのは、証拠はあがっているが、初犯であったり被害があっても弁償しているため、起訴を免れる場合です。
  贈収賄など犯罪を犯した場合、起訴された時点で起訴休職の対象になります。本来、実刑が決まってから懲戒免職になりますが、道の手続きでは勾留期間が終わって接見ができるようになると本人の意思を確認し、起訴事実を認めていると確認できた時点で懲戒免職になります。

分事由の説明書交付の義務

  では具体的な事例の説明をいたします。ある町の課長Aが収賄容疑で逮捕され、町長は「収賄容疑で逮捕されたことは地方公務員法に違反する」という簡単な理由を記載した処分説明書を交付し、懲戒処分にしました。この措置は正しいでしょうか。
  地方公務員法49条1項には、「処分権者が職員に対して懲戒その他その意に反する不利益処分を行う場合には、その処分の際、必ず処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない」という規定があります。職員のほうにも、「不利益な処分を受けたと思うときは説明書の交付を請求することができる」という規定が同49条2項にあります。法に反する不利益な処分を受けたときは不服申し立てをする権利が認められていますが、どうして自分が不利益な処分を受けたのかが明確にわからなければ、不服申し立てもできません。
  地方公務員法32条で、「公務員は法令を遵守する義務がある」と定められています。懲戒免職処分になるのは逮捕されたからではなく、その前提となる非行事実があったからです。また、お金を受け取ればすべて収賄行為になるというわけではありません。「課長Aは業者から、職務との関連で、何かの見返りに現金を受け取った。そこで懲戒免職処分にする」というのが正しい表現です。
  今は収賄が品物で20万円、現金で10万円を超えると警察が動きます。また、業者から職務との関連で現金をもらうことは非行に該当します。収賄罪になるかということと、行政非行として判断するということは別問題ですので、刑事で無罪になったとしても懲戒になる可能性はあります。後から懲戒免職処分の有効性を争われたときにきっちり対応できるようにするには、事実関係を記録しておく必要があります。
  次に、「起訴休職処分を受けた後、第一審で無罪になった。起訴休職処分は効力を失うのか」という問題です。地方公務員法28条2項には、「刑事事件で起訴された場合には、一方的に休職処分をすることができる」と記載されています。起訴された人間に役場で仕事をさせるわけにはいかないだろうという趣旨です。たとえ無罪判決になったとしても、刑事と行政は別ですので、休職処分を取り消す必要はないと考えます。

方不明者の処分告知の有効性

  懲戒処分で多いのはやはりお金の問題で、業務上預かっているものをなくしたとか横領したというパターンが多いです。次に収賄、麻薬、それと職務上、固定資産税の評価額で便宜を図ったなどというものが多く、その次に多いのが、無断欠勤です。
  職員が行方不明になった場合、懲戒処分の告知はどうすればよいのかが問題になります。この事案は兵庫県の公用車の運転手で、2年後に定年を控えていましたが、借金を苦に行方不明になってしまいました。
  借金を苦に自殺した場合などは、相続を放棄すれば借金は背負わないですみますが、懲戒になって退職金が出ないのは気の毒なので分限処分にすることが多いです。この事案では懲戒処分になり、家族に人事異動通知書を渡し、県の広報にも載せました。これが地方公務員法49条1項の、説明書交付義務の要件を満たしていないとして、裁判所から選任された不在者の財産管理人が兵庫県を訴えました。「有効な通知がないから懲戒免職処分は生じていない。退職金を支払え」ということです。
  一審の神戸地裁は県側の処分を有効としましたが、控訴審の大阪高裁では、簡易裁判所で申し立てをしなければ通知書が有効に届いたことにならないとし、処分無効の判決を下しました。それから県が上告し、最高裁判決では再び県側の処分が有効となりました。この判決は本人がどこかで生きているということが前提で、自分がいなくなれば懲戒免職になることは本人がわかっていただろうということ、兵庫県は以前から懲戒免職者を同じ方法で県の広報に載せていたということ、そのうえ家族に通知書を手渡していたということが根拠となっています。
  行方不明者の懲戒処分の告知で、一番確実なのは簡易裁判所の公示送達です。もしくは、通知書を家族に渡し、町村の広報に出し、そのうえ新聞に出せば有効と考えられますが、行方不明者に対する対応には十分注意する必要があります。

務命令に従う義務

 懲戒処分で次に多いのは、職務命令違反です。神戸の警察官の職務態度が怠慢で節度に欠け、上司の再三の注意や指示にも従わず、さらに暴力事件を起こしたことを総合し、分限免職となった事案があります。また、公立中学校の教員が無断欠勤、校長の指導に従わない、不穏当な発言を繰り返したという理由で分限免職になりました。
  それでは、ある町の総務課長が町長の施策を誹謗する言動を繰り返していたという事案、これは処分の対象になるのでしょうか。
  地方公務員法30条の「すべての職員は全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、かつ職務の遂行にあたっては全力を挙げてこれに専念しなければならない」という規定が服務の根本基準であり、同32条には「職員はその職務を遂行するにあたって、法令・条例・地方公共団体の規則および地方公共団体の機関の定める規定に従い、かつ上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない」、地方自治法173条には「吏員は上司の命令に従わなければならない」という規定があります。
  総務課長が町長を批判するという場合は職務命令違反であり、分限処分による降任、もしくは精神的な病気であれば休職、あるいは分限処分ではなくても配置転換などの措置が必要であると考えられます。それでも改善されなければ、免職を検討せざるを得ないと思われます。
 
診療所の医師が命令に従わないという事例はよくあります。福島のある村の村立病院で、医師が真面目に診察をせず、夜中に38度くらい熱のある子どもを受診させると「夜中に子どもを連れて歩くから余計に悪くなるんだ」などと言ったり、看護師に「注射を適当にしておけ」「薬を適当に出しておけ」と全く診察をしないで投薬行為をしていたという事案があり、分限処分になりました。

産宣告を受けた職員への対応

  次に、職員が破産宣告を受けた場合の身分はどうなるかという問題です。最近は複数の消費者金融から借金をして多重債務者となった、あるいは保証人になった場合など、借金に関する相談がかなり増えており、給料の差し押さえによって多重債務が職場に明らかになることが多いようです。しかし、破産者となるだけでは、公務員の欠格条項にはなりません。したがって、破産を理由に上司が退職を迫ると、違法な退職勧奨ということになりかねません。
  地方公務員法16条に「成年被後見人または被保佐人になった場合は公務員としての欠格条項に該当する」※という規定があります。1999年の民法改正前は、禁治産者、準禁治産者と呼ばれていた制度です。準禁治産者というのは判断能力が著しく不足する人のことをいい、この中には浪費者も含まれていましたが、現在の被保佐人は浪費者であるということが要件になっていません。今の法制度では、あくまでお金を使う浪費者というのは民法上の制度とは別であるとされています。したがって、破産者であっても必ずしも懲戒処分や分限処分の対象とはならないというのが結論です。
  また、職場に返済の催促が来るなどという場合に関しては、貸金業の規制等に関する法律では返済の催促に職場を訪れたり電話をするのは違法であるとされています。ですから、違法行為をされていることを理由に退職勧奨をすると、これもやはり違法であると言われかねません。このような職員には、ただちに自己破産手続きや個人再生手続きなど然るべき措置をとるように上司が勧告するのが妥当な方法であると思います。

※判断力が不足する人や認知症の高齢者、知的障がい者など自分自身の権利を守る能力が十分でない人の財産管理や身上監護を支援する制度。現在はさらに、その下に被補助人という制度もできた。

V、情報漏えいなど新しい課題

  職員のプライベートな問題への対応は、判断が難しいところです。昭和57年に消防署の職員が部下の職員の妻と長期間に渡って関係を持ち、その部下夫婦が離婚に至ったという事案があり、分限免職処分になりました。現在なら、妻子ある職員が不倫行為をし、町民から非難が殺到して業務が遂行できないなどといった場合は検討の余地があると思いますが、「不倫しているから」というだけでは処分の対象となる行為とはいえないと私は考えます。
  また、夫婦間で暴力をふるう、いわゆるDV事件で裁判所から接近禁止命令が出たという場合はどうでしょうか。このような事件を起こせば、法令を遵守する義務がある公務員としての資質にも疑いが生じます。ただ、DVは犯罪行為そのものとはいえず、DV法自体も最近施行されたばかりで事案も十分ではありません。任命権者が個人のプライバシーの領域にどこまで関わっていくかは難しい問題ですが、今の社会は「DV行為はとんでもないことだ」という見方をしていますので、それも考慮しながら処分を検討していくことが今後の課題です。
 その他にも、昔は考えられなかったようなコンピューターによる情報の漏えいなど、いろいろな問題が出てきています。新しい問題に遭遇するたびに、法制度や公務員の身分保障という観点から、物事を判断していくことが必要になります。